Feature 京都の企業特集


利用者さんとご家族の人生の一助に。一人一人が自分らしく生きやすい社会をつくる、西陣会で働く意義
京都には伝統ある企業やスタートアップなど、魅力的な企業が数多くあります。
そんな京都企業にフィーチャーした「企業インタビュー」。
今回は社会福祉法人西陣会「西陣会ホームとなり」サービス管理責任者の尾崎 暢俊(おざき まさとし)さんにお話を聞きました。
- まずは自己紹介をお願いいたします。
僕は北海道出身で、京都と大阪の大学で学んだ後、2012年に社会福祉法人西陣会へ入職しました。
現在はサービス管理責任者としてグループホームの利用者さんたちの身の回りの環境調整や支援が適切になされているかを見ています。言葉での自己表現が難しい方が多いので、何がしたいのか、何をお考えになっているのかを入居者さんの振る舞いや表情から読み取りながら日々関わっています。
グループホームは利用者さんが日中の活動を終えてホッとする時間を過ごす場所でもあるので、安心できる生活の一部になるように心がけています。
- 西陣会はどのような団体でしょうか?
西陣会は1960年に西陣地域で働く若者のための場として結成されました。住み込みで働く若者たちがダンスパーティーなどを開催して同世代との交流をもったり、労働問題についてみんなで考えたりする場所として始まり、そこから徐々に市民センター、京都市民福祉センターへと変化し、学童クラブや一人暮らしのお年寄りへの配食サービス、障がい者の自立支援事業など地域ニーズに応える場として発展してきました。
現在は主に学童クラブと、障がいのある人の日々の生活や余暇活動のお手伝い、幅広く生活に困難がある人を対象とした相談支援事業などのサービスを提供しています。
目指しているのは、一人一人がその人らしく生き、大切にされ、助け合って共に生きていける社会。地域に根ざし、地域の人たちの生活や人生を支えることが西陣会の理念です。
- 入職した理由をお聞かせください。
もともと大学では心理学を学んでいたのですが、お世話になった教授から心理学より哲学の方が合っているのではないかと言われ、哲学科のある大学に編入しました。そこで学んだのが『自閉症の現象学』です。自閉症の人が世界をどう捉えているかという問いに触れたことが、福祉に興味を持つきっかけになりました。
西陣会の決め手は、面接官がスーツではなくラフな格好で、事務所にいる人たちも安心できる優しい対応をしてくれて、年の差はあっても気持ちの若い人が多いなと感じたことです。
人に興味を持って、その人は何を感じているのか、何を思っているのかを思いやれる人でないとできない仕事だからこそ、心根の優しい人ばかりなのだと思い、入職を決めました。
実際、仕事をしていても、何かあったらみんなが一緒に考えてくれるので、一人で抱え込むことはありません。約60名のメンバーがそれぞれの部署で日中の活動やグループホームでの支援などをしているのですが、部署が違っても同じ利用者さんと関わるため、利用者さんを中心としたコミュニケーションは活発です。
- 入職後の印象的なエピソードを教えてください。
グループホームの入居者さんの中に、先の予定をすごく気にされる方がいらっしゃいます。入居当初は頻繁に部屋から出てきては、不安そうな顔で次の日やその先の予定をスタッフに確認していました。活動を視覚的に提示するスケジュールの導入などを通して、どの活動が気にかかっているのかを試行錯誤して探っていくと、大事なのはすべて飲食に関わる活動だと推察されました。
そこで、予定を確認してきた際に「ちゃんとご飯はありますよ」とお伝えするようにしたところ、不安げな確認の頻度が減っていき、先の活動についてスタッフとやりとりするときにも笑顔が見られるようになりました。
みんなで考えて実施した取り組みから、その方の世界に対する不安感を減らすことができたこと、親御さんから「家でこんなにニコニコしている顔を見たことがない」と喜ばれ、ご家族の関係改善にも少し貢献できたことがとてもうれしかったです。
もう一つ、僕が入職してすぐの頃に、初対面のその日に一緒に大阪まで外出した方のことが印象に残っています。穏やかに目的を達してもう帰ろうかというときに「帰らない!梅田に行く!」とその方が大の字になってしまったときは、「えらいことになったぞ」と思いました。
このときは非常に戸惑いましたが、まずはこの方の気持ちを受け止めて要望に応えていき、それからこちらの要望を少しずつ出していくようにしました。次第にお互いの意思疎通が円滑になり、肩の力を抜いて楽しく過ごせるようになりました。
しばらくして、その方は九州のグループホームに入居することになり、親御さんから「一緒に送り出してほしい」と要望をいただき、九州まで一緒に行きました。初めて入る自分の部屋でしたが、実家で使っていたなじみのものであふれていたこともあってか、すんなりと中に入られました。しばらく一緒に部屋を見て回り、最後に「もう帰るけど大丈夫?」と聞くと、こちらの気持ちとは裏腹に返事は「バイバイ!」とあっさりしたものでした(笑)。
その後送っていただいた写真の中で、仕事道具のかなづちを片手に笑顔でカメラにピースをしている姿を見て、彼が新しい出会いの中で楽しく生きていく一助に自分がなれたのなら、それは本当に光栄なことだと思いました。
この仕事は、一人一人に合った関わりを手探りで見つけていく必要があるので、最初からうまくいくことはほとんどありません。接していく中で徐々に心を開いてもらい、その人の好みや個性を知っていく。どこで何がどう作用するかはすぐに分からないのですが、時がたって「あのときの関わり方がこう作用したのか」と気づくことが多々あり、それがこの仕事の面白さだなと実感しています。
- 社風について教えてください。
今の西陣会は、変化の途上にある法人です。みんなで意見を出し合い、議論と試行を重ね、みんなが働きやすい、より良い仕組みとその運用を模索しています。今年度からリフレッシュ休暇も導入され、早速新入職員が活用してくれました。
利用者さんの毎日の生活を支援しているので忙しい職場ではありますが、みんなが無理なく働き続けることができるように福利厚生についても充実を図っているところです。
僕自身は育児休暇を2回取得しており、子どもの看病などで急に協力をお願いする場面もあるのですが、誰かしらが必ず助けてくれるという安心感があります。現状人手が十分に足りているとはいえませんが、その中でもお互いを気にかけて積極的に手を貸していくムードがある職場はいいなと思っています。
- 西陣会の強みや特徴を教えてください。
地域に根付いた法人であることもあり、多くのご家庭やご近所さんと長い関係性を保っていること、厚く信頼を置いていただいていることはひとつ特徴かもしれません。幅広く事業を手掛けているため、一人のご利用者のさまざまな生活場面・ライフステージにわたってアプローチしています。
一方、新しく入職した人にはOJT担当の先輩職員がついて、着実にスキルアップできるように育成計画が組まれています。関わるすべての人を大切にしようという気持ちが強いのが西陣会の良さです。
また京都市居宅介護事業連絡協議会(居連協)の事務所として京都市内の居宅介護事業所をつないでおり、障がいのある人たちを支える人たちの声を行政に届ける役目も担っています。
私たちは一人一人の人間がその人らしく生き、大切にされ、助け合って共に生きていける社会を目指しています。
自分に見えている世界はあくまで自分だけの世界。いろんな世界観で生きている人たちと向き合うことで、自分の人生観も変わっていきますし、広い視野を持ってより優しく生きていく、そんな価値観が育まれる場でもあるような気がしています。
- 最後に学生へのメッセージをお願いします。
「人間」に興味のある人はもちろん、自身と周りの世界にズレを感じたことのある人や、その「ズレ」に悩んだ経験のある人にも、福祉の仕事はしっくりくるのではないかと思います。この仕事においては、あなたが人生を通して学んだあらゆることが、あなたとあなたが関わる他者の世界を接続する鍵になります。
だから今は学ぶことを楽しんでほしい。普段関わらないような人とも出会う機会を見逃さず、あなたの世界の輪郭を外へ大きく広げてほしい。「分かっていること」は安心だけど「分からないこと」は面白い。
ダイレクトに人の役に立てる仕事、目の前の人から勇気と元気とまだ誰も挑戦していない新しい課題がもらえる仕事、自分も含めた「あらゆる人が生きやすい社会を作る一助」になる仕事に興味があれば、ぜひ話を聞きにきてください。人に興味がある方なら、どなたにでも門戸は開いていますよ。
ありがとうございました
今回インタビューさせていただいたのは『社会福祉法人西陣会』様です
法人ページはこちら社会福祉法人西陣会