Feature 京都の企業特集
職員を支える「もう一つの福祉」が、ここにある。社会福祉法人えのき会に学ぶ「ケアラー支援」の未来
令和6年11月に施行された「京都市ケアラーに対する支援の推進に関する条例(ケアラー支援条例)」は、介護や看護など、家族のケアを担う「ケアラー」を社会全体で支えることを目的とした条例です。働きながら家族をケアする人が安心して暮らせるまちをつくるには、職場の理解と仕組みづくりが欠かせません。
そんな中、「介護休暇制度」を導入し、介護や育児を抱える職員が柔軟に働くことができる環境を整えているのが、京都市伏見区の社会福祉法人えのき会です。「お互いさま」の精神を大切にしながら、誰もが働き続けられる福祉のかたちを目指す同法人。制度導入の背景と現場での取組について、法人事務局の秋山 智子(あきやま ともこ)さん、生活介護事業所さくらの家分室で働く小中 加奈子(こなか かなこ)さんに伺いました。
▼制度詳細:https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000340927.html

- Q1: えのき会が大切にしている理念や、設立の背景を教えてください。
秋山さん
私たち「えのき会」は、京都市伏見区にある社会福祉法人で、主に重度の障害がある方々の支援を行っています。当法人の特徴は大きく2つあり、1つは「利用者さんと職員が1対1の配置になるように心掛けていること。そして、もう1つは「理事長自身が障害者の親である」という点です。そうした背景から「できるだけ寄り添う支援をしたい」という思いが法人全体に根づいています。職員は不足しているのが現実ですが、その中でもみんなで奮闘しながら、寄り添う支援を実現できるようにしています。
えのき会の法人理念は「重い障害があっても、地域の中であたりまえに暮らす」です。1985年頃、伏見区榎町にある一軒の借家に親たちが集まり、総合支援学校卒業後、重度の障がいがある子たちが、施設に入所して生きていくか、家族が全面的に介護する以外に生きる術がない事を知り、活動を始めたのが「えのき会」の原点です。
障がいのある人が必要な支援を受けながら、地域の中でその人らしく当たり前に生きていけるように願っております。そういった思いから、デイサービスやグループホーム、ショートステイ、居宅支援、相談支援、そしてシェアハウスなど、地域の中で支援がつながるように事業を展開しています。私自身は事務職として採用や庶務を担当していますが、職員と利用者さんが、誠実に向き合っている姿を日々間近で見ています。

- Q2: 職員が安心して働くために、どんな制度を設けていますか?
秋山さん
当法人では、介護休暇制度を周知・啓発しています。介護休暇制度は簡単に言うと、家族の介護を理由に休むときに通常の有給休暇とは別に年間5日間の休暇が付与される制度です。給与が減ることなく休むことができるため、有効活用してもらいやすい制度です。福祉業界では人手不足により、法人が制度を設けていても実際には使えないケースが多いのですが、当法人では実際の取得実績も豊富です。
理事長が日頃から言っているのは「利用者さんとの信頼関係を育てるには時間が必要だから、家庭の事情で辞めるのは本当に残念」ということ。そうした思いが制度の取得率をあげることにつながっています。家庭の事情というのは本当にさまざまで、育児や介護、病気など、誰にでも起こり得ます。だから法人としてできる限りサポートしたい、というのが出発点です。
取得率が高いのは、職員が「申請しやすい」ムードづくりを徹底していることも大きいと思います。上司の顔色をうかがうことや、書類で細かく理由を説明する必要もありません。「休暇を取りたいです」と本人が言えば、私たちは「どうぞ、堂々と取ってください」と伝えています。現場はその分大変になりますが、それでも「お互いさまだね」という気持ちで助け合える風土があります。
もちろん、介護休暇を設けたからといって、全てがスムーズにいくわけではありません。現実的には家族の介護を理由に退職する職員もいます。それは個人の選択ですし、どうしても避けられないことですが、できる限りその人が仕事を辞めずに続けられるように環境を整え、最終的に退職という選択になったとしても、その人が「ここまで支えてもらえた」と思えるような法人でありたいと思っております。
また、当法人は「くるみん認定」も取得しており、2020年には初めて男性が育休を取りました。5日間に分けて取る人や10日間まとめて取る人など、さまざまです。それぞれの家庭の状況に合わせて柔軟に対応できるようにしています。
- Q3: 実際に制度を使う立場として、どんなことを感じましたか?
小中さん
私は2018年に入職しました。前職は全国展開している企業で、当時は関東勤務を打診されていたのですが、ちょうどその頃に母の体調に変化が出始めて、夫も単身赴任になり、子どももまだ小さくて、仕事と家庭の両立が難しくなってしまいました。このまま働き続けるのは無理だと思い、転職活動をしている時に出会ったのが、えのき会でした。
入職してから間もなく、母の通院や介護のために休みが必要になり、「第一号」として介護休暇制度を利用しました。そこから少しずつ制度を使う人が増えていって、今では当たり前に取れるようになっています。
主任として今感じているのは、「制度を整えること」よりも「使いやすい雰囲気をつくること」が大事だということです。介護や育児で休むと、どうしても「申し訳なさ」を感じてしまう人が多いですが、私は「謝らなくていい」と伝えるようにしています。欠員が出れば現場は確かに大変です。でも、「どう回すかをみんなで考えよう」「担当外の利用者さんの介助に入ることで新しい経験ができるよ」と前向きに捉えるように指導しています。

秋山さん
この休暇の取得率は気持ちの上では100%ですが、制度を必要としている人の実際の取得率は80%ほどです。私は「何かあったら声をかけてね」と言うだけでは足りないと思っています。何かあった時点では、もう本人はかなり追い込まれていることが多いので、日頃の小さな変化やしんどさの芽に気づくことができる人でありたいと思っています。
介護や育児に限らず誰にでもつらい時期はありますから、早い段階で声をかけ、制度の存在を伝えられる関係づくりを意識しています。例えば子の看護等休暇についても「取得できるのは5日だけ」と思っている職員が多いのですが、実は子ども1人につき5日ずつ取れる仕組みなので、お子さんが2人や3人いる職員はもっとたくさん休めます。そうした細かな制度の説明やフォローも、私たち事務方の大切な役割だと思っています。
また、職員が何かあっても「知られたくない」「会社に相談したくない」と感じるようでは、組織としての信頼関係が成り立っていないとも思っています。私はいわゆる管理職ではなく一般職の事務職員ですが、「困ったことがあれば相談してもらえる存在でありたい」「現場の声を上に伝えられるパイプになりたい」と思って働いています。現場のことを知らないからこそ、かえって言いやすい立場かもしれません。
小中さん
主任やリーダー同士で集まる「主任・リーダー会議」でも、「難しく考えすぎないようにしよう」「できる範囲で支え合おう」という話をよくしています。完璧じゃなくていいので、みんなで悩みごとをシェアできる組織でありたいですね。

- Q4: 仕事と介護の両立に不安を抱える方や企業の方へ、どんなメッセージを伝えたいですか?
小中さん
昨年、母の介護を終えましたが、仕事と介護を両立させることに対して、今も明確な答えがある訳ではありません。ただ、経験者として思うのは、介護などは誰にでも起こりうる問題と捉え、組織の上の方たちには、働きやすい環境づくりをお願いしたいと思います。介護などで仕事を休むと他の職員に負担がかかるのは避けられない事です。そのため私自身は、出勤した時には100%の力で仕事に取り組むことにしていました。制度を使って介護休暇を取りながら、できる範囲で仕事を続けることはできます。1人で悩まず、ぜひ相談してください。
えのき会は、人間関係もとても良好ですし、福利厚生面もできるところから改善を図り、もっと働きやすい環境を整えていきます。私のように新卒から福祉業界で働いてこなかった人間でも、他業界での経験を活かすことができ、意欲に応じて責任あるポジションを任せてくれる法人です。少しでも興味をお持ちいただけましたら、ぜひホームページをご覧ください。

ありがとうございました
今回インタビューさせていただいたのは「社会福祉法人えのき会」様です
法人ページはこちら社会福祉法人えのき会








