Feature 京都の企業特集
人が育つ仕組みをつくる。
「花と緑のプロ」ちきりやガーデンが挑む、社員を大切にする教育改革
京都市では「中小企業ひと・しごと環境魅力向上支援事業」を通じ、職場環境の改善や人材育成など、企業の魅力向上に資する取組を支援しています。
▶制度詳細:https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000339356.html
この補助金をきっかけに、新たなチャレンジに踏み出した企業の一つが株式会社ちきりやガーデンです。
1946年の創業以来、生花販売やレンタルグリーンをはじめ、京都の街並みや公共空間を彩る庭園づくりを手がけてきた同社は、伝統を受け継ぎながらも、時代に合わせた「働き方の改革」を進めています。「辞めたくならない会社にしたい」という思いのもと、これまで職人の経験に頼っていた教育体制を見直し、補助金を活用して動画研修やマニュアル整備など人材育成の仕組み化に挑戦しました。
花と緑を扱う企業が、「人を育てる」という新たなテーマにどう向き合ったのか。その背景と成果について、副社長の木村 岳史(きむら たけし)さんと総務人事部長の杉窪 華奈(すぎくぼ かな)さんにお話を伺いました。

- Q1: ちきりやガーデンの事業内容とお二人の役割について教えてください。
木村さん
当社は、昭和21年に創業し、京都を拠点に「花と緑の専門企業」として歩んできました。事業の柱は生花部門・レンタルグリーン部門・造園部門の3つ。生花部門では、百貨店やホテルを含む店頭での販売、ブライダルの花束やアレンジメントフラワ-の販売他、商業施設などの活け込みや会場装花を手がけています。
今でこそ「洋花」を使ったアレンジメントは一般的ですが、当社が手がけ始めた戦後当時は、まだ珍しいものでした。現在では有名ホテルのロビーや百貨店のエントランスから、茶会や式典といった京都らしい場面まで、四季の移ろいを花で表現しています。
他方、レンタルグリーン部門では、オフィスや商業施設、イベント会場などに観葉植物を定期的に提供し、空間演出や環境づくりをサポートしています。加えて造園部門では、公共施設や個人邸の庭園づくりも手がけ、設計から施工、維持管理までを一貫して対応しています。

杉窪さん
当社の特徴は、長い歴史の中で「花に関わる仕事のすべて」を自社で担ってきたこと。生花・造園・レンタルの各部門はそれぞれに専門的なノウハウを有していますし、業務内容も多岐にわたります。
ただ、根源にあるのは「人の暮らしや街を花と緑で豊かにしたい」という純粋な思いです。だからこそ、部門の違いを越えて社員が誇りを持てるような環境を整えることが大切だと感じています。

木村さん
私は金融機関勤務を経て入社し、現在は副社長として経営全般と仕組みづくりを担当しています。金融業界で学んだ「組織の基盤を整えることが人を支える」という視点を、この会社にも根づかせたいと思っています。今回、京都市の支援を受けて実践した教育改革も、まさにその延長線上にある取組です。
杉窪さん
私は総務人事部長として採用や教育、人事制度の運用を中心に携わっています。現場で働く職人さんや営業、事務スタッフなど、様々な立場の社員が安心して働けるように、人に関わるすべての仕組みを整えるのが私の仕事です。
若手が安心して成長できる教育体制をつくること、そしてベテランの経験をきちんと次世代に引き継げるような土台を整えることを重視しています。その意味でも「中小企業ひと・しごと環境魅力向上支援事業補助金」を活用した人材育成の仕組みづくりは、当社にとって大きな節目になったと思っています。
- Q2: 教育体制の整備に踏み切ったきっかけを教えてください。
木村さん
当社の仕事は「技術」が基本です。花を扱う技術は、どんなに時代が変わってもAIにとって代わられるものではありません。だからこそ、人の技術と感性が何より大切です。ただ、その技術やノウハウをどう次の世代に伝えていくかが長年の課題でした。現場で感覚的に身につけてきたスキルをうまく言語化できず自信が持てないことで、若い社員が辞めてしまうこともありました。
例えば、昔は花の専門学校で学んでから入社する人が多かったのですが、現在は少子化で花の専門学校が減少し、社員の入社時期や、経験値、スキルも様々です。花の仕事は華やかなだけでなく、冷たい水に手を入れたり、冬でも空調が使えなかったりと、体力的にも厳しい面があります。だからこそ教育の仕組みを整え、会社が目指す方向を伝えることが、社員の定着につながると考えました。
杉窪さん
花には流行がありますし、逆に「タブー」もあります。例えば菊は日本では仏花の印象が強いですが、海外では装花やブライダルでも使われることがあります。お客様の中にはSNSで海外の花飾りを見て「これと同じようにしてほしい」と希望される方も多いです。そうしたときに、正しい知識と判断力がなければ対応できません。
だからこそ、当社として社員全員が一律の知識を持ち、同じ基準でお客様と向き合えるようにすることが大切だと考えています。現場ごとの経験や感覚に頼るのではなく、体系立てて学べる仕組みをつくることで、どの部門の社員も自信を持って仕事ができるようになってほしいと思っています。
- Q3: 具体的には、どのような仕組みをつくられたのですか?
木村さん
今回教育の仕組みづくりの一環として、社内教育用の短編動画を制作しています。全部で15本ほど、1本あたり最大でも10分程度の短い構成にしていて、今まさに撮影の最中です。プロのカメラマンに依頼し、映像のクオリティにもこだわっています。

講師を務めているのは、当社設立者の妻です。彼女はフローリストで、「第8回インターフローラワールドカップ世界大会」でシルバーメダル受賞を含め日本代表を3回経験し、国際コンペでも審査員を務めました。当社で学び、花屋の後継者としてだけでなく、フラワーデザイナーとして活躍されている方は全国各地にたくさんいらっしゃいます。
長年の経験を持つ彼女が、そのデザインエッセンスを落とし込んだ花の選び方や技術、感性の育て方を基に、お客様の思いを汲(く)み取った商品作成をできるように実演しながら解説しています。ちきりやガーデンだからこそ学べるこの動画を見れば基礎から順に学べるようになっていて、新入社員だけでなく、先輩社員のスキルアップにも役立つ内容です。
また、動画だけでは伝えきれない部分については、マニュアルを整備して文字情報として補完しています。実際の作業現場で「見て、読んで、やってみる」という流れをつくることで、経験の浅い社員でも理解しやすい教育体系を目指しています。
杉窪さん
現場は日々忙しく、後輩に丁寧に教えたくても時間が取れない、というような場面も少なくありません。動画にしておけばタイミングを選ばずに繰り返し見ることができるので、全員が同じ内容を同じクオリティで学べるようになります。
ベテラン社員の技術や職人特有の感覚のようなものを若手社員が目で見て学べるのは大きいですね。「こういう考え方があるんだ」と理解するきっかけにもなりますし、世代をつなぐ“共通言語”としての役割も果たしてくれると思います。
- Q4: この取組を経て、会社としてどんな姿を目指していきたいですか?
木村さん
今回の教育改革を進めるにあたり、まずは社員へのリサーチを行いました。現場からは「自分たちが苦手としている作業をもう一度基礎から学び直したい」「動画で繰り返し確認できる仕組みがあると助かる」といった声が多く上がりましたので、そうした要望を踏まえて、今回は社員が特に苦手に感じているパートを中心に撮影を進めています。
今後は、社員アンケートなどを通じて内容をさらに充実させていく予定です。現場の声を反映しながら、より実践的で、一人一人が成長できる仕組みにしたいです。
この動画が完成したら、社員のスキルが上がって独立していく人も出てくるかもしれません。でも、それは決して悪いことではないと思っています。業界全体の輪が広がり、花に携わる人が増えることは歓迎すべきことです。
それよりも、花や当社のことを嫌になって辞めてしまう人を減らしたい。当社で仕事をすると花に関するいろいろな知識や技術が身につき、また、自分の願いを叶えることができると思える環境を整えることで、“辞めたくならない会社”にしていきたいと思っています。
- Q5: 最後に、学生やこれから社会人になる方へメッセージをお願いします。
杉窪さん
これまで当社は、人事部を設けてきませんでした。現場中心で動いてきた分、「人を育てる」という視点が十分ではなかったのです。いまでは考え方をガラッと変え、「人を育てることこそが未来への投資になる」と信じて改革を推し進めています。
社員一人一人がやりがいを持ち、自分の目標や夢を追いかけていける環境をつくること。それが結果的に、会社全体の成長につながるはずです。
いま社内では「自分たちの会社をどういう場所にしたいか」を社員一人一人が考え、共有する「仲間を増やそうプロジェクト」が進んでいます。さまざまな部署のメンバーがディスカッションして、「もっと休めるようにするためには」「もっと効率よく働くためには」といったアイデアを言語化しているんです。
こうした取組を通じて、既存社員が自分の仕事に誇りを持ち、その思いを新しい仲間に伝えていけるような会社にしていきたいですね。
今後は「ちきりやで学んだ人が業界のいろんな場所で活躍している」と言ってもらえるような存在を目指しています。そうやって当社の名前が広がっていくことが、何よりの誇りになると思っています。
木村さん
当社のメンバー全員が「花が好き」「植物が好き」という情熱を持って集まってきています。学生のみなさんの中にも「好き」な気持ちをそのまま仕事にしたい方がいたら、ぜひ挑戦していただければと思います。
会社としても、一人一人が自分の願いを叶えることができる組織でありたいです。「花と緑の力で人々の暮らしをより豊かに変えていく」そんなやりがいのある仕事に、ぜひ一緒に取り組みましょう。

ありがとうございました
今回インタビューさせていただいたのは「株式会社ちきりやガーデン」様です
法人ページはこちら株式会社ちきりやガーデン








