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# インタビュー # 企業訪問 # 株式会社アイビ建築 # 代表取締役

元ひきこもり、建築業の社長になる。コミュニケーション術だけに頼らない、アイビ建築の営業手法

京都には伝統ある企業やスタートアップなど、魅力的な企業が数多くあります。
そんな京都企業にフィーチャーした「企業インタビュー」。
今回は、株式会社アイビ建築で代表取締役を務める佐名田 一郎(さなだ いちろう)さんにお話を聞きました。


株式会社アイビ建築はどのような会社でしょうか。

京都市伏見区と宇治区を中心に、高断熱・高気密の高性能エコハウスを専門で提供しています。

そもそもは1968年に父が建材販売業の「有限会社アイビ建材」を創業し、1991年に母が建築業である「株式会社アイビ建築」を創業しています。

ただ、父の建材販売業は左官材料を専門に扱っていて、当時は業績が振るわない時期でした。一方、世間はバブルの時代で建設業界は好景気。建築業のアイビ建築も時流に乗って、一気に業績を伸ばしました。私は37歳だった2008年に両社の代表取締役に就任し、2017年にアイビ建築がアイビ建材を吸収合併する形でひとつの会社となっています。

貴社の強みや特徴を教えてください。

やはり断熱性と気密性を誇る「高性能エコハウス」を提供しているところですね。
高性能エコハウスを分かりやすい表現でいえば、「冬は非常に暖かく、夏はとても涼しい住宅」です。省エネルギー住宅の先進国であるドイツやカナダ、スウェーデンの住宅をも上回る性能を実現し、現在は新築だけでなくリフォームにも対応しています。

高性能エコハウスは、快適面と省エネ面、健康面に非常に大きな効果を発揮します。熱を検知するサーモグラフィーカメラで冬の室内を撮影すると、天井から床まで均一のオレンジ色に表示されて高い室温が保てると分かります。

具体的には、暖かい部屋と寒い部屋との温度差による急激な血圧変動によって心臓や血管の疾患が起こるヒートショックも防げますし、気密性が高く熱が逃げにくく、「省令準耐火構造」をクリアしているため、光熱費や保険料も抑えられます。

入社理由について聞かせてください。

私は名古屋の大学で学んでいたものの、卒業はしていないので新卒入社とは言えません。実は、大学生活の途中から下宿で引きこもっていました。

何か決定的な出来事があったわけではありませんでしたが、今から思えば社会に出ることに漠然とした不安があったのかもしれません。徐々に大学に足が向かなくなると、下宿では電話線まで引き抜いて、徹底的に人と会うのを避けるようになっていました。

ひきこもり生活は1年半にも及びましたが、最後は下宿先に乗り込んできた母に引きずり出され、翌日には「アイビ建材」で働き始めることになっていました。会社を創業するなど、息子から見てもパワフルな母だと思います。

ただ、大学時代のひきこもり経験も、今では原点になっているといえます。経験がない人からは楽をしていると思われがちですが、ひきこもりは精神的にかなり過酷な経験。「あれほどつらいことをわざわざ自ら選んですることはない」と、今では会社として、ひきこもり支援も始めています。

人に会うのが嫌で話すのも得意でなかっただけに、母に引きずり出されたときも、「果たして自分に仕事ができるのか」という不安は拭えませんでしたね。ちなみに、初めの2年間は建材販売業の社員で、ダンプカーにセメントや砂を載せて販売する日々。初めのうちは、「おはようございます」というあいさつにすら苦労していて、どんなに頑張っても、「おおきに」なんて恥ずかしくて言えませんでした。

その後、建築営業に移り、3年ほどたった頃だったでしょうか。コミュニケーション能力で他人より劣っていると自覚していただけに、他の面でできる限りのことを努力しようと思うようになってきました。

具体的には、お客さんのために図面を詳しく描いたり、得意の絵を生かして完成予想図を手書きで描いたりと、コミュニケーション以外でできることは全てやりだしました。

それを続けていると、徐々に知識もついてきて説明も苦でなくなり、お客さんも納得してくれるようになりました。他社と金額を比較する相見積もりを出したお客さんに、「一番高いけどアイビさんにするわ」と言ってもらえることが続いたときには、「営業に向いているかも」と思えるようにすらなりましたね。大学時代に引きこもった私が営業に自信を持てるほどになったのですから、不思議なものです。

入社後に感じた印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

高性能エコハウスとの出会いは、今でも覚えていますね。きっかけは数年前に、同業者6 社ほどで新築住宅をてがけようと始めた、定期的な勉強会でした。その勉強会に、ある窓メーカーの社員を招いたときのことです。勉強会終わりの飲み会で、メーカーの社員が「ついこの間、出張でドイツに行ってきたら、向こうの家にビックリしましたよ」と話し始めました。

「何にビックリしたんですか?」

「いや、向こうの家は壁の厚さが20センチメートルもあるんですわ」

その話を聞いて、「ホンマかいな。壁厚20センチメートルの家なんか、あらへんやろ」と私たち。ところが、その社員は話を続けます。「住み心地のよさは抜群や」「外の音は聞こえへんし、外にも音は漏れへん」「保温性も高いで」と内容も具体的。「これはもしかしたら」と感じ、後日に日本の高性能住宅を訪れる機会が得られました。

訪れたのは1月で、気温は氷点下の日でした。ところが、家から出てきたご主人は半袖半ズボンの姿。真冬とは思えない軽装に驚きながら、いざ家の中に入らせていただくと、家の隅々まで暖かさが行き届いていました。全館空調かと思ったら、エアコンは1台だけとのこと。あまりの衝撃に、帰り道には「高性能住宅を始める」と決心していました。

経営面で印象に残っているエピソードはありますか。

37歳で代表取締役に就任したものの、長らく創業者の母が専務という立場で業務を行っていましたので、私は名ばかり社長でしたね。経営面は母が見ていることをいいことに、私は社長という肩書で営業を続けていました。

当時はすでに営業には自信があり、仕事にも面白味を感じていた時期でした。ところが、やがて業績悪化に直面します。

当時は「なぜここまで苦しいんだ」と悩んだものです。朝7時過ぎから夜11時まで仕事をこなす日々でしたから、さらに仕事時間を増やすことは難しい。それならば自分のやり方が間違っているのではないかと。

営業パーソンとしていくら自信があっても経営はできていなかったのではないか──。ようやくその考えに至ったのが、40代半ばのことでした。

当時の私はお客さんに喜んでもおうとはしても、恥ずかしながら一緒に働く社員がどんな思いで仕事をしているのかを考えたことがありませんでした。ピンチはチャンスと言いますが、まさにピンチのときにようやく思い立って、自分の幸せを追求するのではなく、まずみんなの幸せを追求しようと考えるようになり、就業規則から給与体系、経営理念、ビジョンなど、数えきれないほどの改革を行いましたね。

それと、入社時の自分、3年前の自分、5年前の自分と比べて成長していると感じられることが、自己肯定感や仕事へのモチベーションにつながると考え、今は社員が自己成長感を感じられる環境づくりも大事にしています。

かつて、ひきこもりだった自分自身の経験からも自己成長感の重要性は感じていて、難しい仕事なのに成長が感じられないということがないような環境を整えていきたいというのはうそ偽りない思いですね。

社風について教えてください。

ありがたいことに、お客さんや社員からは非常に高く評価してもらえています。自分でも、奇跡的に温和で人柄のいい人材に集まってもらえ、感謝するばかりです。

当社では職人も抱えていますが、コミュニケーションも非常に円滑に行えています。そもそも世間的にイメージされる、とっつきにくい、こだわりの強い職人は業界的にもほとんどいなくなっています。

私たちはリフォームも手がけていて、新築とは異なり、すでにお客さんが住まれている住宅にお邪魔するわけですから、不愛想でコミュニケーションを取らないなんて許されることではありません。私たちとしてもお客様はもちろんのこと、リフォーム現場がマンションであればエレベーターに乗り合わせた方にも必ずあいさつをするようにしています。

最後に学生へのメッセージをお願いします。

私は「就職活動中の学生のどこを見ていますか」と聞かれた場合、「あいさつができるかどうか」と答えるようにしています。

実は私もパソコン操作などに集中している際、社員が「おはようございます」とあいさつをしてくれているにもかかわらず、顔を合わせずに言葉だけで返してしまうときがあります。あいさつは少なくとも相手の顔を見て、「おはようございます」と声をかけることが大事で、私自身反省する日々です。

「あいさつなんて、そんな低レベルなことを」と思われるかもしれませんが、実際のところ、しっかりとあいさつができる人は1割もいないと考えています。あいさつはそれほど難しいことでもあるため、学生には相手を見て明るい声でのあいさつを意識するだけで得をすると伝えたいですね。

あとは、就職活動をしていると大企業に惹かれるのは分かりますが、中小企業を含め多くの企業の話を聞いてもらえればと思います。一生をかけてやりたいことが大企業になら必ずあるとは限らないですし、今の中小企業には給与面やワークライフバランスの面で、大企業に近づけようと努力している会社が多くあります。

大企業と中小企業の両方をアルバイトやインターンシップで体験してもらい、どの企業が自分に合うか、色眼鏡をかけずに見てもらいたいですね。

ありがとうございました 

今回インタビューさせていただいたのは『株式会社アイビ建築』様です

企業Webサイトはこちら株式会社アイビ建築instagram @aibi_kenchiku_kyoto

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最終更新日

「ここで人生を過ごせる喜び」を感じられる会社を目指す

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